はるのぶのつれづれ

幼女の子宮で泳いでいた頃の記憶

軽く実験台にされちゃった(笑) ほか

・軽く実験台にされちゃった(笑)

 私の行っている讃岐うどん屋は中年の夫婦がやっているフランチャイズ店だ。時折娘さんがレジを担当しているが、文字どおりの看板娘である。
 そんな店に最近、二十歳前後のアルバイトが入った。バイトは他に、同じく二十歳前後の女の子と中年の女性の二人がいる。彼はどちらかというと頼りなさそうな印象を受けるが、真面目な感じがした。言われたことは愚直に守っているからだ。
 ある日、私はカウンターに並んでいた。セルフ式なので代金は先払いである。勘定を待っていると、彼がざるうどんの皿とつゆの椀を片手ずつ掴み、一緒に客の盆に乗せていた。いつもはひと皿を両手で持ち、丁寧に客に出している。それが本部からの指示なのだろう。今の動作はどこかアームのキャッチャーに似ており、機械的で不作法に見える。もてなしに必要な心の落ち着きを素振りにも感じられなかった。
 それを見咎めて、店長の奥さんが彼に注意していた。忙しい時は仕方がないけど、こういう時は「両手で失礼します」と言うものだと。そして、私の注文がたまたまざるうどんだったからか、用意した麺とつゆを私の出した盆に片手ずつアームのように差出し、握った手を放す刹那に「両手で失礼します」と言い、先の彼に少し声を落として「こう言うの、分かった」と指図していた。確かにこう言えば客の印象は悪くなるだろう。
 私は一応、常連である。確かに週に二度しか行かないし、クーポンは残さず使う。天ぷらとおにぎりを注文しないから客当りの利益は薄いだろう。二度行くうち一度はかけうどんである。客寄せ商品だから利益にならない。安いものしか頼まないから印象が悪いのか、店長サイドからは大切な客と思われていないのは確かだろう。
 にしても、である。私の気の弱さが見た目に出ているのかも知れない。私なら文句を言わないと思っているのだろう。大間違いである。現にここで言っている訳だから・・・・

・もう諦めてますよ(笑)

 この歳で、母親からは未だにマー君と言われている。父親が死んでから、私を名前で呼んでくれる家族がいなくなった。
 そんな中、郵便局の方が集荷に来てくれた。母が玄関に出てその旨を聞くなり、マー君、荷物持ってきてと言う始末。外ではマー君と呼ぶなと何度も言ってきたが(そして何度も反古にされたが)、家の中でも他人がいるじゃないか。恥ずかしくないのかと言いたかったが、幸い集荷人には顔が見られていない。私は玄関の脇から荷物を母に預け、すぐに身を引っ込めた。
 集荷人が戻った後で、情けない思いをしたと母に告げた。母はすぐに、マー君ゴメンねと言った。

・好きな人の夢を見たが

 好きな人の夢を見るのは、私にとって珍しいことだ。そもそも近ごろの私は夢を見ない。(正確に言えば夢を見たという記憶がない。)増して恋愛感情を押し殺して接している相手のことは、夢の中でさえ抑圧してしまい出てこないようだ。にしても、今日は違っていた。
 こういう夢だった。会社で彼女と一緒に作業をしていた。突然電気が止まり、辺りが真っ暗になった。周りを心配する上司の声が聞こえた。私は、こっちは大丈夫ですと答えた。彼女以外の声が聞こえたのはこれが最後だった。
 誰もいなくなりましたねと彼女が言った。彼女はこういう時割合に冷静な性格だ。私は不思議なことに身の心配はしていなかった。すこし言葉を交わしたあと互いに無言になったが、この沈黙は耐えられる。ずっとこのままでいたいと思っていた。
 その後、私は彼女に何か大切なことを言ったはずだった。奇妙だが、その部分だけ上手く思い出せないでいる。
 夢を振り返り、私はちゃんと彼女と話しをする機会が欲しいのだと思った。もう断片的な会話は嫌だ。仕事の合間に個人的な話を少しするのは緩慢に過ぎる。しかも部署が離れているのだ。言葉を交わせるだけでも有り難いという状況はもう止めたい。
 彼女は誰と話す時もほとんど愛想笑いで終わっている。一方、バイト同士の会話ではかなり黒い言葉を吐き出す時もある。どうやら私は裏表のはっきりした人が好きなのだ。愛想笑いの可愛さは破壊的である。(正社員はこの半面しか知らないはずだ。私には黒い部分も遠慮なく見せているが。)このアンバランスさが私の心を揺さ振るのだ。嗚呼、私は好きになる相手を間違えた!!

4.チョーナーを固有名詞のように使う

 昼休憩に行ったそば屋で韓国ドラマの「龍の涙」が流れていた。年配の女性客がパートのおばちゃんにドラマの流れを聞いている。以下、おばちゃんの説明。
「チョーナーの二号さんが死んで、本妻さんの息子がチョーナーの跡を狙ってんのよ。」
簡潔な説明だ。李芳遠(朝鮮王朝三代目王太宗)の野望や彼と王妃(二号)の関係の冷たさが伝わってくる。
 にしても、だ。チョーナーを固有名詞のように使っている人を初めて見た。殿下という意味である。韓国ドラマにはまっている者同士で話題にしたいが、生憎相手がいない。