はるのぶのつれづれ

幼女の子宮で泳いでいた頃の記憶

卒塔婆詩(そとばぽえむ) 第3回

かびたランドセル背負い(しょい)学校に行くと
怪訝な顔して見つめてくる大人たち
子供の心をとうに忘れたような声で
私を不審者と呼んだ

聞いていないから知らずにいることができる
自殺

盲目の巨人を連れた砂漠
覆面たちは水浴びの美女を見た
砂を浴びて歓喜する男たち
巨人はラクダに乗って一人去った

愛する人に見られた浮気の手紙
笑わなくても泣いていないことは分かる

幼い頃の私のようにいつも
生まれざる息子のように軽く
小さな顔の小さな体の子供がひとり
私の手のひらに立っている
父にも男にもなれない私の小僧は
手を閉じてもまた浮かび上がり
子供だから子供を手放さない
逆行した年輪の堆積
小僧よお前は三十になった
父になる気はないか
男になる気はないか
せめて最後の願いとして
家を出て一人にならないか
小僧は今日も私の手のひらに立っている

母は私を捜さない
目の前にいる私を捜さない

気配はするのに音はしない
静かな人になりたい
音を立てなくてもここにいる
気配の人になりたい

真っ黒になるまで終わらない雑巾がけ
白いままの布はとうに綻びている

向うから人がやってくる
こっちからもやってくる
あちらは筆箱がやってくる

何もしないで泣いたら思うつぼだ
自分のせいにして死んだら喜ばれるだけだ
自分の命も生活も知らず知らず握られているようで
ようやく誰の仕業と考えるようになった
一人ひとりの態度に表れた命の軽視
その最も大きな者が必ずいる
(そう思わないと戦えない)
人を殺すのにナイフは要らないとはよく言ったものだ
隣人として必ず敵をとる

四月の朝はなめらかな雨に煙る
桜の風に吹かれて散れば名残

朝を恐れるから朝を知らない
今日も誰かが仕事を見つけた
今日も誰かが彼女を見つけた
知らない人に朝が始まる