はるのぶのつれづれ

幼女の子宮で泳いでいた頃の記憶

卒塔婆詩(そとばぽえむ) 第2回

空を見上げれば群衆が見える
見えればすなわち空を歩く
日本晴れの悲しみを人知れず
歩く大群ふたたび現れるとき
日本の危機は可視化される

風の子の生まれ変わりは幼女にて
黒褐色の蟻の群れ
ポスター一枚の女王を演じる

ブラウン管に連れ戻されるシンデレラ
王子の大群をあとにまいんは去った

手渡しは十秒以内の砂時計
二度三度永遠の巻き戻しは
時を止めたい母体の連想

銀砂漠は病みがちな目を開いて
四角い顔を壁に向ける
薄暗い部屋は夕刻の静けさに漂い
小さな女の子がそっと佇む
彼女は水を飲ませようとコップを持ち
口が分からないので口のような全身に水を撒いた
銀砂漠は微笑むようにふっと光を閉じた

美しい三姉妹の一人と仲良しになり
彼女とデートをする約束の小屋
駅前で売っていそうな大きなピザが現れ
好きだなんてはっきり言ってよと迫られた
壁際に追いつめられて目を覚ます
今日の悪夢

六畳間から延びた黒い真っすぐな
線が東京に進み一点に交わる
点を挟んだ向こう側で男は至福の表情を晒していた

私を殺す者を殺せ
殺す者を殺せ
者を殺せ
殺せ
私を殺せ
殺す者は殺さずに殺す
「殺す」と「私」を組み合わせ
「者」を曖昧にする者
「者」を曖昧にする論理
そこから逃れられない者が
私を殺す
「者」を捕えよ

タオルの穴に落ちた
手は母親の意志のように放さない
泣き終るまで

旅人は父の墓を探している
時間の有限さに逆らうのか敢えて部屋を歩き
冬山のように遭難して幾年
母の前で氷漬けになった
止まった時間に気づかないから
母は息子を捜さない
否応のない時間と誰かが止めた時間
時間が互いを引き合ったまま
息子は思う
疲れたのは時間のほうだった
享年に追いついても背中を知らず
息子は今日も旅人である

死んだカラスと食べる猫の違いは
悪意
悪意のない遠慮なさに呆れる