はるのぶのつれづれ

幼女の子宮で泳いでいた頃の記憶

トロイダルCVTの開発と開拓者精神(メモ)

 昔撮ったビデオが出てきた。見たらなかなか面白そうだったのでメモを取る。『NHKスペシャル 世紀を超えて〜テクノロジー あくなき挑戦〜第一集 摩擦の壁を打ち破れ』(2000年8月29日再放送)
 日本精工トロイダルCVT開発責任者、町田尚(まちだひさし)氏。入社五年目、三十歳になったばかりの時にCVT開発の責任者に抜擢。しかし、同僚からは「悪いクジを引いたね」と冷やかされる。誰も成功していない分野だったからだ。当時を振り返って町田氏。
「極端なことを言ったら、自分が中小企業のベンチャーの社長になった気持ちで、だから自分で計画をつくって、自分ですすめられる。しかも、世界で誰もやっていない。ナンバーワンになれば世界をリードできる。こんな面白いことはない。」
 彼はまず、CVT開発の第一人者であったアメリカのチャールズ・クラウス氏の許を訪ね、共に開発を進めることになる。アメリカでの共同開発。CVT外部から伝えられる動力を、金属どうしをこすり合わせて変速したのではすぐに磨耗する。だから油を介して回すことにした。ここまではセオリー通り。だが、どんな油を使うか。圧力によって瞬時に固体化し、瞬時に液体に戻る油を使えば摩擦を抑えることが出来る。実際にそれに適した油も見つけたが、温度上昇で無機能化。「油はないか」と出光興産に依頼。
 「高温高圧でも滑らないオイル」という課題に取り組んだ出光の技術者はふとテープファスナーにヒントを得る。四年がかりで、500種以上の油を調べ、分子構造がテープファスナーのように絡み合う油をようやく作り上げる(化学反応による分子構造の組み立て)。
 ところがベアリングトラブル発生。原因は白色組織。金属のガン。油が鉄を破壊するという想定外の事態に。磨耗に強いとされていた添加物ポリサルファイドがその原因だった。再び出光。新たな添加物の開発。町田氏は当時を振り返る。
「何回やっても全て悪いって結果だったら、これはあきらめるしかない。一つでもいいのがあったら、なぜそれがいいのかを考える。だから、白色組織は出たんだけども、白色組織化しないものもいっぱい出たんですよ。この差は何なんだと。それをあきらかにしようとしたんです。」
 着手から21年と7か月、ようやくCVTは完成した。再び町田氏。
「世界で誰もやっていない最先端のことをやってるんだという意識ですね。それが自分を支えたんだと思うんですね。途中で止めて、じゃあ次に私が誰もやっていない新しい課題に着手できたかというと、たぶん確率はゼロに近いと思うんですよね。必ずストライクが来るぞと思ってバッターボックスに立っているような気分で最後まで頑張るしかない。」
町田氏の口調は自信に満ちていた。
 番組の最後は、GMのCVT開発責任者ハミッド・バハブザデ氏の研究室。「競争はとても素晴らしいことです。競争こそがテクノロジーを進化させ、コストダウンをもたらすのです。もし競争がなければ、われわれは今でも馬車に乗っていることでしょう。健全な競争があるということはとてもよいことなのです」と氏。傍らには町田氏らによるCVTが置いてあった。(メモ終わり)
 全体を見ると、町田氏らの活躍よりも出光の貢献のほうに力点が置かれていた。なにしろ油がキーワードだから。もちろん町田氏らの貢献は、権利上の制約があって話せないということを考慮しなければならない。油以外の分野については番組では捨象されている。(番組は町田プロジェクトの歴史を追う形になっているが、結果として出光の貢献が軸として描かれている。)
 町田氏の自信に溢れた表情を見ていると、やはり自分の仕事に出会える人は幸せだ、と率直に思う。(とはいえ、世界最先端のニートなら一人知っている。)