はるのぶのつれづれ

幼女の子宮で泳いでいた頃の記憶

卒塔婆詩(そとばぽえむ) 第5回

美しい胸板に憧れて買った土粘土と紙粘土を
針金に巻きつけて塑像を等身大に仕上げる
白と黒の混ざり合った肌の冷たい匂いが胸を高まらせ
これが今日から私の新しい体なのだと
歓喜のなか額と額を合わせて念を入れる
魂を段階的に注入して半分
肉体は私の許を去った

踏み込んだ朝の認識に応える
深い湖のようなプレパラートの視界
生命の神秘が時系列に広がり
弁証法的に命が始まり終わってゆく朝

画面の向うで知らない男が
子供用のパンツに精液をかけている
すえた写真が半透明のプリントに犯されて
初潮を迎えたアイドルの対角線上にある

ホモセクシャルのホストが同僚に抱えられ
半ば開かれた胸板に唇を当てている
男を求める目は素面のまま酔いに紛れていた

落ち葉にうずもれた大地に砂をかけながら
馬は棺を横切って黒い土くれに影を宿す
月は半ば満ちては元の暗闇にすっぽり身を隠し
嘶きと共に棺の人間が立ち上がる
誰かに見られている気配を無数に感じて
冷たい葉陰に素肌を晒した
大きな叫び声が嘶きと響き合い
朝まで生き続ける

客の居ない舞台でパントマイム
照明も付いていない客席から拍手が聞えてきた

身代わりを求めて死んでゆく白鳥は
泳ぐべき湖を知らないまま足をばたつかせている
空しい涙を笑う見知らぬ者たちを呪いながら
死んでいった鳥たちを
真冬の沼に咲くアジサイ
時を忘れた貝殻のように
無意識の世界に押し込んでゆく

真ん中の繰り抜かれた穴から世界が見える
かたよった思想だらけの海で人が溺れ死んでは
ろくに助けられずに浮かび続ける
不完全さが完全さと磨り替えられ
疑義を挟む者を海に落とす暗黙の順番
まるで全てを了解したような沈黙により
地は地として足を乗せることを許している

地続きの肉体が語りだしては止まらない
衝動に任せて前衛舞踏のように地を這っている
言葉が断片的に聞えては
線香花火の終焉に消えて
掴めないもどかしさ

そろそろ私を産んでくれ
私を産みたければ結婚しろ
それが嫌なら帝王切開させてくれ
私はお前の胎内にいる

後記:

詩というより、心象風景を描く場になってきた。普段から心に映っている風景をスケッチしたほうが、ネタに困ることはない。